📒(調査研究)デジタルユースワークの歴史|「デジタルユースワーク フィンランドの展望」翻訳紹介④Wisa-ARCP

デジタルユースワークの歴史

目次

はじめに

私たちが日々直面している若者支援(ユースワーク)の現場は、急速にデジタル化が進んでいます。スマートフォンを見る日常生活、SNSでの交流、AIやゲームとの関わりなどデジタルデバイスに触れる機会は枚挙に暇はありません。若者の暮らしのなかにテクノロジーは深く組み込まれていますが、日本のユースワークの現場では、「デジタル」と「ユースワーク」がまだ十分に結びついているとは言えません。

そこでWisaが推進しているデジタル・ユースワークの認知と理解の日本社会で拡大するために、調査研究プロジェクト「Wisaアクション・リサーチセンター and パブリケーション」を2025年度より自主事業としてスタートしました。まず初めの活動として、フィンランドの先進的な実践をまとめた『デジタル・ユースワーク ― フィンランドの視点(Verke編)』(DIGITAL YOUTH WORK –a Finnish perspective, Verke, Helsinki 2017)を翻訳・紹介していきます。

フィンランドは、若者の参加と社会的包摂を重視するユースワーク政策において、欧州でも高い評価を得ており、その中でも特に「デジタル技術をどうユースワークに活かすか」という点で、他国に先駆けた取り組みを行ってきました。自治体、教会、NGO、学校、行政、研究機関が一体となり、若者の視点に立った実験的・実践的なユースワークを展開しています。

本書はその成果を理論と実践の両面から紹介した、まさにデジタルユースワークの「教科書」とも言える内容です。

日本でも、不登校、ひきこもり、孤立、情報過多、依存症、多文化共生の課題など、若者の生活とテクノロジーが複雑に絡み合う現実があります。フィンランドの経験は、日本の文脈にそのまま当てはめられるわけではありませんが、「どうすればテクノロジーを若者の成長や参加、安心、安全につなげられるのか」を考えるうえで、非常に多くのヒントを与えてくれます。

この翻訳紹介が、日本におけるデジタルユースワークの理論と実践を広げるための一助となり、支援者や教育者、研究者、政策担当者、そして何より若者自身が、より良い未来を共に構想していく手がかりとなることを願っています。

*翻訳紹介する文献は、クリエイティブ・コモンズ:the Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) licenseとして翻訳公開ができるものを対象としています。

 

デジタルユースワークの定義①はこちら

フィニッシュ・デジタル・ユースの簡単な歴史 (pp.23-28)

Suvi Tuominen, Verke

ユースワーカーには鋭い直感が必要である。若者文化における新しい現象やトレンドに迅速かつ大胆に取り組まなければならないからである。デジタル化は明確に一つの領域となった。フィンランドのユースワークは、新しいメディアやテクノロジーが登場した直後から、その特徴や現象をどんどん取り入れてきた。例えば、ゲーム機は1980年代から青少年センターでいち早く設置された。1980年代後半から1990年代にかけてフィンランドでデータネットワークが導入されると、ユースワーク機関は情報共有のためのウェブサイトを構築し始めた。2000年代初頭からは、オンラインコミュニティやソーシャルメディアサービスを使って、若者がユースワーカーと接触する機会が増え始めた。ここ数年の急速な発展、特にモバイルテクノロジーは、ユースワークにおいても注目され、斬新なオンラインツールやソーシャルメディアサービスが若者の間でも人気を博している。

ユースワークにおけるデジタル・テクノロジー – 初期段階のデジタルメディアは、デジタルメディアが存在する限りユースワークに必然的に伴うものであろう。ユースセンターでデジタル機器を活用する目的は、早期に若者が平等にデジタル機器にアクセスできるようにすることであった。ピカピカの新しい機器たちは、当然ながら若者たちをユースセンターに惹きつける役も買ってきた。例えば、最新のゲーム機やコンピューターは、まだ家庭で使われることが比較的まれだった80年代にユースセンターに導入されたのだった。現代の青少年センターには、ゲーム機に加え、タブレットやデジタルカメラなどのデジタル技術が常備されるようになっている。

ユースワークにおけるデジタル・テクノロジー – 初期段階

1988年にNuorisotietopankki(青少年情報銀行)が設立されたときから、電話通信ネットワークを使った指導やアドバイスが始まった。ビデオテックスをベースとした若者向けの全国的なメッセージ・情報交換サービスが最初のきっかけだった。若者たちは、青少年センターでこのビデオテックス情報サービスに接続された機器にアクセスする環境が提供された。フランスと当青少年情報サービスの2か所は、当時ビデオテックスのパイオニアだった(Hirvonen 2003; Vesikansa 1991)。 掲示板システム(BBS)もまた、1980年代から1990年代にかけて、青少年活動で適宜、活用されていた。これは固定電話網に接続されたコンピュータで、通常、さまざまなフォーラムやファイルアップローダーを備え、情報やアイデアを交換するためのサイトとして機能し、現在のインターネットとほぼ同じような娯楽を提供していた。たとえば、タンペレ(訳者:注₋フィンランド第3の都市)の小教区では、「マンセ・ヘブン」(“Manse Heaven”)と称するBBSを通じて、若いテクノロジー愛好家たちにネットワークサービスを提供していた(Kosonen 2011)。タンペレの小教区は、当時すでにデジタルユース・ワークに積極的に取り組んでいたのである。小教区が企画したBit-tileiri(「バイト・キャンプ」)は、90年代初頭に組織化されたデジタル・ユース・ワークの初期の活動のひとつだった。キャンプ参加者は自分のコンピュータを持参し、ゲームに加えてコンピュータの扱い方も一緒に学んだ。Bit-tileiriは今でも年に数回開催されている。(多くの自治体、NGO、小教区が、ゲーム開発クラブ、LAN、eスポーツ活動など、長年にわたって青少年活動にゲームを取り入れるさまざまな方法を開発してきた(Kosonen 2011)。90年代半ばにブラウザベースのインターネットが一般的になると、多くの自治体の青少年情報・相談サービスが独自のウェブサイトを運営し始めた。若者向けの情報サイトには、たとえばヘルシンキ市のコンパッシ・ユース・インフォメーション・センター(of Helsinki’s Kompassi Youth Information Centre)やヘルピメスタ・リー(Helppimesta ry)がある。当初、サイトは一方通行のコミュニケーションにしか使われていなかったが、技術発展に伴ってQ&Aサービスやその他の双方向的要素をどんどん取り入れたサイトにアップデートされていった。90年代の終わりには、多くのユース・センターがインター・ネットに接続されたコンピュータを持ち、若者たちはそこで電子メールを読むことができるようになった。ユースセンターでは、例えばデジタル写真に関するメディア・ワークショップも開催され、ユースメディア編集委員会が設立されると、若者の文章がオンラインで公開されるようになった。メディア教育における参加型の理念(The participatory ethos of media education)は、何十年もの間、デジタル・ユース・ワークの不可欠な要素となった。クリティカルなメディア・リテラシー、制作スキル、コーディング、その他の重要なメディア・スキルは、現在でもユース・クラブや、オープン・ユース・ワーク*の重要な要素として取り組まれている。

訳注* 「オープン・ユース・ワーク(Open Youth Work)」は特定の参加条件や事前登録、目標達成の義務などを設けずに、すべての若者に対して開かれた形で提供されるデジタル・ユースワークのことを指す。フィンランドやドイツを中心に徐々に定型化していった。

ソーシャルメディアにおけるユースワーク

2000年代の初めには、オンライン・テクノロジーが発達し、リアルタイムのチャットが一般的になり始めた。チャットは特に若者を惹きつけ、ユースワーカーもすぐに追随した。EOPH(現在はEHYTとして知られる)は、青少年活動をソーシャルメディアに持ち込んだ最初のユースワーク団体のひとつである。2003年に仮想空間 Hotelli Kultakala(Hotel Goldfish、現在はHabboとして知られる)において、若者たちはHubuバスというバーチャル情報サービス**の利用に列を成し、EOPHはそこで特定のテーマについてグループディスカッションの場創りに取り組んだ。Hubuは、子どもや若者と予防的薬物乱用防止教育を行うためにフィンランド市を巡回し、さまざまなイベントを行った実在のバスから着想を得たプロジェクトだった(Aspegren 2012; Elämäon Parasta Huumetta ry 2010)。

訳注**HubuバスでユーザーはHabboキャラクターを作成し、バス内に設置されたスペースで匿名のまま薬物に関する質問や相談を行えるように設計されていた。Habboユーザーは毎回Hubuバスに列をなし、毎日約100人が訪問したとされるほど高い関心を集めたプラットフォームであり、デジタルユースワークの先駆的事例である。

ユースワークの分野では、主に非政府組織など、他のアクターもソーシャル・メディアに参入した。2000年代半ばまでに、フィンランドの若者はIRCギャラリア(IRC Gallery)や前述のハボ(Habbo)にオンライン時間の大半を費やしていたため、ユースワークの活動もこれらのサービスに集中していた。サービス管理者と直接やりとりできるため、これらのサービスを通じて各組織の知名度を上げることにも一役を買っていた。ユースワーク組織が開催するグループチャットには、多いときで数百人の参加者が参加した。IRCギャラリアはグループチャットだけでなく、投票、ビデオストリーミング、プライベートチャットなど、他の形態のデジタル・ユースワークもどんどんと採用した。

当初はヘルシンキ都市圏の自治体のみを対象としていたが、やがて全国をカバーするまでに拡大したオンライン・ユースワーク・プロジェクト「ネタリ」(Netari)は、2004年に設立された。最も忙しい時期には、30を超える自治体からユースワーカーが参加した。ネタリは、若者が時間を過ごしたり、ゲームをしたり、ユースワーカーと秘密裏に話し合ったりすることができるオンライン・ユースセンターである。長年にわたり、ネタリはHabbo、IRC-Galleria、Aapeli、Facebook、ask.fmといったサービスと連携してきた。現在も、ネタリはセーブ・ザ・チルドレンがコーディネーターとして活動を継続している。
双方向的で対話的なオンライン・ユース・ワークがソーシャル・メディア・サービスの利活用に重点を置いていたのに対し、2000年代にはユース・ワーク団体のウェブサイトは、情報を提供し、若者が意見を述べるためのプラットフォームを提供することに重点を置きはじめる。代表的な例としては、ヌオルテンネッティ(Nuortennetti、マンネルヘイム児童福祉連盟が運営)、ジイペネッティ(Jiipeenetti、少年少女センターが運営)、地方自治体の青少年メディア委員会、青少年のためのメディア・ワークショップなどがある(Ruotsalainen2003; Tuominen & Talja 2011)。同様のサービスは、年を追うごとにどんどん新しいものが生まれている。

オンライン環境で活動するユースワーク団体は2007年、若者を対象としたオンライン・サービスに携わる実務者のネットワークを設立した(Nusuvefo***)。このネットワークの目的は、青少年向けオンライン・ワークを強化し、オンラインで活動する関係者間の協力を強化することである。設立メンバーは、ヘルシンキ市(Netari)、EOPH(EHYT)、マンネルヘイム児童福祉連盟、セーブ・ザ・チルドレンである。このネットワークは、現在も約40の加盟団体とともに活動している。各団体がネットワークに参加するには、ヌスヴェフォが定めたオンライン活動の倫理原則を遵守しなければならない。共通の原則の目的は、青少年に対する質の高い標準化されたサービスレベルを保証することである。

訳注***Nusuvefoとは、「Network of Practitioners Working with Online Services Aimed at Young People」の略称であり若者向けのオンライン活動を展開する複数の組織が集い、ベスト・プラクティスの共有や倫理的ガイドライン:若者の匿名性、プライバシー保護、安全性確保、フィードバック機構の整備といった原則を明確にしている。参考:Digital Media in Finnish Youth Work, National Report of the Screenagers International Research Project, November 2015

ユースワーカーだけでなく、医療、ソーシャルワーク、学生カウンセリングの専門家など、若者と関わっている人たちも10年ほど遅れを取りながらソーシャルメディアに参入した。最もよく知られた例は、2008年にIRCギャラリアで働き始めたフィンランドのオンライン警察官フォッバ****であろう。彼をきっかけにオンライン・ユースワークは多職種が関わるようになったのだ。これは、次のような理由で、首尾良く実現された。全国的なオンライン・ユースセンターNetariでは、若者がユースワーカーや看護師と自分の問題について話すことができる。例えば、オウル市によって運営されているビストレム(Byström)チャットでは、さまざまな分野の専門家が今でも一緒に働いて若者の相談に応じている。

脚注****フォッバことマルコ・フォルス(Marko Forss)は、2008年9月にフィンランド警察のインターネット部門「Nettipoliisi(ネット犯罪対応ユニット)」の一員として、IRCギャラリア上に公式な警察プロファイルを開設し、若者のいるSNS空間でのバーチャル・コミュニティ・ポリシングを開始した警察官である。彼の活動開始から9か月間で、そのプロファイルへの訪問者数は週3,000~5,000人、ピーク時には35,000人を超え、8,073人から27,901件のコメントや質問が寄せられた。この取り組みは、オンラインコミュニティの中に警察を「見える形」で登場し、若者からの相談や犯罪の情報提供に対する敷居を低くして実際に学校でのいじめや性犯罪、逃亡後に報告された事件など、多くの犯罪解決に結びついた成果が報告された。さらに、彼の活動は2012年には「フィンランド年間警察官賞」にも選ばれており、デジタル時代におけるユースワークとコミュニティ・ポリシングの融合モデルとして注目を集めた。参考:Lauri Stevens, Online patrols: How one Finnish cop tracked youth crime Finnish COP named National Police Officer of the Year for investigations in social media, Police 1 – Investigation, March 16, 2012

フィンランド福音ルーテル教会と小教区の青少年活動は、2000年代の最初の10年間が終わる頃には、オンラインでの存在感(プレゼンス)に焦点を当て始めた。2009年から2012年にかけて実施されたプロジェクト「Hengellinen elämä verkossa(スピリチュアル・ライフ・オンライン)」は、教会のデジタル活動を発展させる上でその役割を果たした。根底にある考え方は、教会で勤める人々が市民と気軽に出会い、すでに活動的な公の場所で議論を推進することであった。オンラインは、教会で顔を合わせている信徒と同じ形の霊的生活を探求しようとする活動環境と見なされた(National ChurchCouncil 2007)。このようなオンライン活動を支援しその発展を可能にするために、教会の職員にインターネット活用の訓練と指導が提供された。長年にわたり、小教区はオンライン活動に関する職員の訓練に投資し続け、それは若者たちに提供されるさまざまなサービスや活動に反映されている。(Hintsala & Ketola2012.)

フェイスブックからモバイルへ

2008年から2009年にかけて、フェイスブックは若者の間で急速に広まった。ユースワーカーに若者と接触し、彼らと一対一で話し合うシンプルな手段を提供した。フェイスブックでは、利用者が自分の名前を正式に名乗る必要があったため、他のサービスよりも簡単に対面式のユース・ワークとオンライン・ワークを組み合わせていくことができ、自治体のユース・ワーカーもオンライン活動を幅広く経験するきっかけとなった。フェイスブック以前の自治体のオンライン・ユースワー クは全国的な「ネタリ」(前述)の活動に参加する自治体ごとの数人のユースワーカーによるものに過ぎなかった。フェイスブックはその状況を変えてユースワークでSNSが飛躍的に受け入れられる節目となり、他のオンライン・ユースワーク活動もフェイスブックの利活用無しではままならない状況となった(Lundqvist 2014)。しかし、フェイスブックの黄金期は数年しか続かなかった。若者はフェイスブックを捨て、よりプライベートなピアツーピアのコミュニケーション・プラットフォームを好むようになった。2010年代初頭にはスマートフォンとそのアプリケーションが普及し若者たちを魅了した。2013年には、市町村のユースワーカーの18%が所属機関から支給された業務用のスマートフォンを利用していた(Hyry 2013)。2年後には自治体のユースワーカーの約62%が(Linkosalo 2015)、2017年には86%がスマートフォンを利用するようになった(Hernesniemi 2017)。モバイル機器によって対面状況でのデジタル技術の使用も可能になり、オンライン・ユースワークと他のユースワークを隔てていた要素は実質的に取り除かれたのである。
フェイスブックは一例だが、若者は絶えず新しいモバイルアプリやサービスを受け入れるため、ユースワークも新しいアプリの使用に気を配り適応していかなければならない。あるアプリケーションは情報提供に、あるアプリケーションはコミュニケーションに、あるアプリケーションは創造性を引き出すために、あるアプリケーションは若者の声を届けるために、といったように次々とアプリケーションの特性を把握する必要がある。ユースワークは、その意味で柔軟に新しいソフトウェアについて学習を継続するものでなければならない。

過去3か月で取り組んだ

自治体のユースワーカーを対象とした調査「過去3か月のデジタルユースワークの取り組み」(N-=576) (Hernesniemi 2017)

 

様々な活動で異なる目標やニーズを満たす、それぞれ適切なアプリケーションを見つけることができる。例えば、冒険教育(adventure education)*では位置情報を利用したアプリケーションやゲームを活用することができる。2016年のポケモンGOの大流行は、ユースワークにおけるモバイルゲームの幅広い活用への道を開いた。
2017年、Verkeはデジタル・ユースワークに関する自治体ユースワーカーの考え方や実践についてアンケート調査を行った(Hernesniemi 2017)。上表の結果から、デジタル・ユースワークの実践のほとんどは、オンライン環境での情報提供やガイダンスに関するものであることがわかる。例えば、若者と一緒にブログを書いたり、メディアコンテンツを制作したりすることは、フィンランドのユースワークではまだあまり一般的ではない。同様に、対面環境とデジタル環境での活動を組み合わせることは(イベントのストリーミング配信、LANパーティー**やその他のデジタルゲーム活動の手配、自主制作文化の普及、小グループ活動の組織化など)は実現されているが、その程度はまだわずかである。しかし、さまざまな活動の幅の広さには目を見張るものがある。多くのユースワーカーが、デジタルメディアやテクノロジーをさまざまな形で実践している。前掲したチャートは、デジタル・ユースワークの活動をほぼすべて網羅しているわけでもないため、実際には、活動の範囲はさらに広範囲に及ぶことを考慮しなければならない。

 *冒険教育(adventure education)は、20世紀半ば以降、イギリス-アメリカを中心に発展した体験型教育の一形態であり、野外活動や挑戦的課題を通じて、自己効力感、協働性、リーダーシップ、問題解決能力などの社会的・情意的スキルを育成することを目的とする。クルト・ハーンの教育理念やアウトワード・バウンド(Outward Bound)の実践に影響を受け、教育心理学や体験学習理論(Kolb, 1984)と結びつきながら学校教育、青年育成、企業研修など多分野に応用されてきている。

**LANパーティー(LAN party)は、参加者が各自のコンピュータやゲーム機を持ち寄り、ローカルエリアネットワーク(LAN)を介して同一空間でゲームやデータ共有を行う集中的な交流イベントである。1990年代後半から2000年代初頭にかけて北米や欧州で盛んとなり、オンライン接続が普及する以前はマルチプレイヤーゲーム体験の主流形態であった。単なる娯楽にとどまらず、参加者間の社会的ネットワーク形成や、ハードウェア・ネットワーク構築スキルの習得機会としての意義も指摘されている。

デジタル・ユースワークの将来

以上のようなデジタルユースワークの歴史を概観すると、他の多くの国と比べて、フィンランドのデジタル・ユース・ワークは、特にソーシャルメディア・プラットフォーム上に構築された、敷居の低いオンライン・ヘルプ・サービスとして機能が重視されてきたことがわかる。多くのユースワーカーは、ソーシャルメディア以外にどのようなデジタルメディアが含まれるのか、まだ完全には理解していない(Verke 2015)。近い将来、若者との対面的な活動をオンラインの要素でサポートするような、より革新的なデジタル・ユースワーク手法の登場が期待される。加えて、自主制作文化(maker culture)のアプローチ、デジタルクラフトマンシップ (digital craftmanship)、その他テクノロジーの創造的活用を促す手法は、フィンランドのユースワークではまだ十分に一般化していない。実際、この点では他国に遅れをとっているとさえいえるであろう。ユースワークの分野にとって、今後、興味深く重要となるであろう技術的進歩は、モバイル技術、MoT、仮想現実、拡張現実などである。このようにオンラインの概念は拡大し、常に再定義され続けている。未来の社会では、物理的な世界とバーチャルな世界、ウェブと拡張現実がさらに密接に結びついたものとなるであろう。デジタル・ユースワークの革新は、テクノロジーの発展と伴走していることを理解することは不可欠である。私たちは、過去にこだわらずに、より未来に向けてオープンに考えるべきである。

本稿の一部は、フィンランド語で発表された以下の論文に基づいている:Lauha, H., Tuominen, S., Merikivi, J. & Timonen, P.(2017)「Minne menet, digitaalinen nuorisotyö?(デジタルユースワークはどこへ行くのか?)」Hoikkala, T. & Kuivakangas, J.(編)『Kenen nuorisotyö? Yhteisöpedagogiikan kentät ja mahdollisuudet(誰のためのユースワークか?コミュニティ教育学の領域と可能性)』Humak & Nuorisotutkimusverkosto所収。

 

次回へ続きます

 

訳注について

本書は、フィンランドのデジタル・ユースワークに関する報告書『Digital Youth Work – A Finnish Perspective』の内容をもとに、日本の読者向けに翻訳・紹介したものです。原文は主にヨーロッパ、特にフィンランド国内のユースワーク関係者を対象としており、読者層を限定した地理的・制度的背景の記述や実務的な案内が多数含まれているため、日本の文脈では理解が難しい箇所や冗長と判断される情報については、適宜省略・簡略化を行いました。また、日本語としての可読性や論理的な流れを高めるために、段落構成の再編や語順の調整を行っている箇所もあります。

また本文内の*は訳者脚注で、日本人の読者向けにわかりづらい用語や日本で普及していない概念・専門用語について独自に調査して解説しています。

このような編集意図にご理解いただきつつ、日本におけるデジタル・ユースワークの実践と議論の促進に向けた一助としてお読みいただければ幸いです。

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